JAN MAGAZINES
2022/04/27
ゴールデンウィーク(GW)が間近となり、登山計画を立てられている方も多いと思います。この時期も雪崩事故は発生していますので、過去の事例から簡単に要点を整理しました。
・死亡事故データ
過去30年間(1991-2020)でGW期間中に発生した雪崩による死亡事故は17件あり、56人が雪崩に遭遇し、18人が怪我、25人が死亡しています。この内、道路での除雪作業に従事していた方の事故1件・死者1人を除き、16件は山岳での事故になります。
県別にみますと、長野県8件(奥穂高岳あずき沢・コブ沢、鹿島槍ヶ岳、白馬大雪渓、針ノ木雪渓)、富山県6件(剱岳八ツ峰・源次郎尾根・早月尾根・三ノ窓、黒部別山、黒部湖林道)、北海道2件(利尻山、定山渓天狗岳)となります。
活動別の死者は、登山者18人、滑走者6人です。また、雪崩の種類は、そのときの気象状況の影響により、直近の降雪による表層雪崩から、湿雪の点発生雪崩や全層雪崩、ブロック雪崩など多様です。
・規模の大きな雪崩
白馬大雪渓で4件(死者9人)、針ノ木雪渓で1件(死者3人)の死亡事故がありますが、この内4件がサイズ3という規模の大きな雪崩です。下の地図は、白馬大雪渓で発生した雪崩4件の発生場所と概ねの到達位置です。最大規模であった雪崩Aは、標高差約1,100m、流下距離約2.8 kmというスケールです。雪崩Dの発生位置は不明ですが、雪渓上部と考えられています。
・雪渓はとても大きな「地形の罠」
白馬大雪渓は、単に「雪崩地形」であるというだけでなく、杓子岳と白馬岳に挟まれたとても大きな「地形の罠」という理解が必要です。そこは雪渓上部からの雪崩だけでなく、杓子岳や白馬岳から雪渓に向かって流れ落ちる多数の沢地形で発生した雪崩の堆積区でもあります。
・ハザードに長く曝されるルート
雪渓の登行は、自分の周囲上方に存在する雪崩ハザードに、長時間、曝されることを意味します。結果、雪崩の発生確率が低かったとしても、雪崩ハザードへの曝露時間の長さによって、リスクの高いルートになります。下の写真は、雪崩Bに関して調査記録を付けるJAN会員。彼の後ろにも、事故とは別の雪崩デブリがあります。
・雪崩対策装備
雪崩ビーコンなどの対策装備は必要です。GW期間中にあった死亡事故において、雪崩ビーコンを所持していない埋没者の発見に要した最大日数は29日間です。22日間を要したものも2件あります。雪崩ビーコンは、捜索救助に関わる人の「安全」と「労力低減」に関わる重要装備です。下の写真は、雪崩Dに関して絶望的なラインプロービングを実施する長野県警察の隊員です。
・良い話とよろしくない話
2018年から2021年までの4年間、GW期間中に雪崩死亡事故は発生していません。これは、皆さま、それぞれが雪崩の危険を考慮した行動を取られた成果であると思われます。一方、よろしくない話としては、致命的になりえたインシデントが、同じ4年間で複数、発生していることです。自分の「上方にある危険要素」と、行動している「地形特徴」を考えた活動をお願いします。
日本雪崩ネットワークは様々な情報を提供するために、日々活動しております。今後も持続し続けて行くためにも皆様のご協力が必要です。