JAN MAGAZINES
2020/04/01
日本雪崩ネットワークによる冬季シーズンの雪崩情報は3月末あるいは4月上旬で終了しますが、シーズンはまだ続きますので、春季における一般的な注意事項をまとめました。参考にして頂ければと思います。
1)荒天の不安定性
一般的に春の降雪直後の不安定性は数日で解消することが多いものです。寒気を伴った低気圧の通過で降った新雪の一報を聞き、シーズン最後のパウダーを楽しもうと斜面に飛び込む前に、果たしてどの程度、積雪が安定しているのか、状況を把握するように努めてください。
もし、判断のための十分な材料を得ることができない、あるいは経験が少なくてわからないのであれば、地形を利用することです。安全に山を楽しむための鍵は<地形>にあります。凸状や孤立した場所がなく、地形が積雪を支えるシンプルな斜面を選ぶことです。また、どのような種類の不安定性があるにせよ、斜度を落とすことが、雪崩の安全対策には最も有効です。
2)濡れた雪の雪崩
濡れた雪の雪崩はとても重いものです。小さなものでも簡単に人を押し流しますし、これに「地形の罠」が組み合わさると、危険度はとても高くなります。小さいからといって油断せず、注意深く対処してください。また、日中に日射や昇温、あるいは降雨などで大量の融雪水が生じた場合は、深夜に全層雪崩が発生しても不思議ではありません。雪面が気温低下と共に凍結していても、積雪内部では融雪水が流れ、雪を融かし続けているからです。
3)ハザードとリスク
自然が持つ危険要因である「ハザード」に曝されることで「リスク」は生じます。ハザードには雪崩もありますし、落石や気象現象などもあります。たとえば、白馬大雪渓や針ノ木雪渓の登行は、長時間、いろいろなハザードに曝されるルート選択です。もし、降雪直後であれば雪崩の危険ですし、大きく昇温し、積雪の融解が進む日であれば落石等の危険も上がります。また、雪渓上部にガスや雲が掛かり視界が悪い時は、状況認知の手掛かりを得ることに制限がでます。よって、判断の不確実性は高くなり、リスクも上がる、と考えることが大切です。
4)行動様式の習慣化
被害が甚大な雪崩事故は、雪崩ハザードに曝される地形(雪崩地形)とグループマネジメント(人の行動)の整合が悪い時に起きています。雪崩の走路や堆積区の中で休憩している、雪崩地形内で多数の人が行動しているなどです。
適切なリスクマネジメントを行うためには、昔から言われている「安全な場所で休む」「危険に曝される場所では適切な間隔を空け、素早く移動する」といった行動様式を、日々行い、習慣化することが大切です。
「春だし、雪も安定しているから、今日は大丈夫だろう」と考え、その日の状況に合っていない行動を続けていると、ある日、それは大きな事故となって返ってきます。JANでは、適切な行動の習慣化のため「Think SNOW」と名付けた4つの問いを山中にて利用することを、2006シーズンから提唱しています。
5)雪崩対策装備の携帯
安全啓発「ロープの向こう側」にも記載があるように、雪崩ビーコンなしの埋没者を探すことは、多大なる労力と時間が掛かります。過去25年間において、4月~6月の雪崩死者数は、全体の約2割を占めており、捜索に多大な時間を要している事例もあります。また、山岳警備隊による雪崩ビーコンでの初めての生存救出事例は5月に発生した事故です。春であっても、雪崩対策装備は携帯するようにしてください。
では安全なスノーシーズンを
日本雪崩ネットワークは様々な情報を提供するために、日々活動しております。今後も持続し続けて行くためにも皆様のご協力が必要です。