JAN MAGAZINES
2020/03/14
雪崩の危険を考える際、とてもわかりやすく、かつ有効な概念があります。それが「雪崩の危険トライアングル」です。
この概念は、JAN独自のものではありません。2000年秋、JANが翻訳出版した『Free Riding in Avalanche Terrain』(Canadian Avalanche Association刊)に記載があり、以後、国内で広まりました。このような考え方は、当時の日本の雪崩教育の現場にはありませんでした。
「雪崩の危険トライアングル」の意味するところは「不安定な積雪がある時に、人間が雪崩地形内に入ることで、雪崩の危険が生じる」です。
一般的なリスクマネジメントの概念と同様に、雪崩というハザード(危険要素)に、人が曝される場所(雪崩地形)に入ると、リスク(雪崩の危険)が生じるということです。言い換えれば、現在、雪崩が自然発生するようなコンディションであったとしても、雪崩地形を外せば、雪崩の危険はなくなります。
雪崩のリスクマネジメントではハザードなどの他に「脆弱性」も考慮します。脆弱性とは、外的な刺激(雪崩)への耐性のようなものです。たとえば、圧雪車の運転手と生身の滑走者であれば、雪崩に対する耐性が異なります。高齢者と若いアスリートでも違いますし、雪崩ビーコンやエアバッグなどの装備を携帯した人と丸腰の人でも異なります。
そして雪崩リスクを軽減するには、ハザードに曝される雪崩地形に入る「時間と人数」をコントロールすることが最も重要です。これは昔から言われている「安全な場所で止まる」「危険な場所は素早く移動する」「一人ずつ滑る」といった原則的な行動様式が極めて大切であることを再認識させてくれます。
JANマガジン【vol.6 地形を友として】にあるTremper氏の言葉のように、基礎をきちんと学べば、雪崩地形の初歩的な見極めは経験が浅い人であってもできるようになります。しかし一方で、人間は判断を下す際に必ずヒューマン・ファクターの影響を受けます。これは地形認識においても同様です。
そこでJANでは、2005年秋に「Think SNOW」という標語を作り、4つの問いを行動中に繰り返すことで「良い行動習慣を身に付ける」ことを目的にした試みをスタートさせました。その最初の問いが「あなたは、今、どこにいますか?」という雪崩地形に係るものです。
危険に曝される人数と時間を減らすため、「休憩する」「滑走後に再集合する」「テントを張る」といった際には、必ず、周囲を見回し、雪崩地形から外れていることを確認する必要があります。また、登るルートも可能な限り雪崩地形を外すことが大切です。
死者が3人も4人も出る甚大な被害の雪崩事故は、雪崩地形と行動マネジメントの整合に問題があるケースがほとんどです。「地形内に複数人がいた」「発生区の直下で休憩をしていた」「堆積区にテントを張っていた」など、いろいろなパターンがあります。
国内では年6件の死亡事故が発生し、9名が亡くなるのが過去30年間の平均ですが、もし、雪崩地形への認識を高め、それに見合った行動マネジメントが徹底できれば、雪崩死者は半数になると考えています。
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