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2023/02/05

【調査速報】230129・白馬乗鞍岳・天狗原東斜面・雪崩事故(4/20修正)

2023年1月29日に白馬乗鞍岳(長野県)の天狗原東側斜面で発生した雪崩事故について、概略を整理しましたので、お知らせ致します。数値等は速報値ですので、この後、変更される可能性もあります。※情報提供あり、雪崩の原因となった弱層について補記を追加しました(4月6日)。

  
  
●事故概略●
日 付: 2023年1月29日
時 刻: 14時25分頃
場 所: 天狗原東斜面(地形図
概 略: 山岳滑走を目的とし、準備と装備の整った2グループが行動中に出会い、天狗原の東斜面を滑走。第1グループの2人と第2グループの1人が、それぞれ一人ずつ安全に滑走を終え、下部で待機。第2グループの2番目の滑走者が雪崩を誘発し、滑走者当人と下部にいた3人、合わせて4人が雪崩に埋没。たまたま近傍の尾根上にいた第3グループ(8人)が、雪崩および事案の発生を覚知し、すぐに捜索活動に入った。事故発生が警察へ通報された後、同日夕方には遭難対策協議会の隊員も出動し、関係者の下山のサポートがなされた。翌30日、警察によって意識不明者の救助が行われ、2人の死亡が確認された。

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写真1 発生区全景(1月29日撮影)

  

●雪崩データ●
種 類: 面発生乾雪表層雪崩(持続型スラブ)
規 模: サイズ3(標高差295 m)
標 高: 2,110 m付近(上部破断面)
方 位: 南東~東
破断面: 幅 110 m、厚さ1 - 2 m
傾 斜: 不明
弱 層: こしもざらめ雪
滑り面: 融解凍結層(1月14日の降雨で形成)

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写真2 破断面の様子(1月29日撮影)

  

●行動●
第1グループ(A, B, C)は山頂付近で積雪観察を行い、安全策を取り、地形内の尾根上(図1内P)を滑走。その後、Aは先に下山した。残ったBとCは、同じラインを滑るため、山頂へ再び登ったが、途中、第2グループ(D, E, F)と一緒になった。BとCは、前回と同じラインを滑走。続いてDも尾根上を滑走し、BとCの近くで停止。3人は登り返しのため、シールの装着に取り掛かる。そして、Eが同じ尾根に滑り込むが、雪塊があったため、それを避け、スピードをコントロールしたところ、雪崩を誘発。Eは、すぐにエアバッグを展開し、ほぼ完全埋没の状態で発生区下部にて停止。この雪崩によりCとDが完全埋没、Bが危機的な部分埋没(頭部が積雪内)となった。

230129_tenguhara_droppoint.PNGのサムネイル画像
写真3 破断面付近からの堆積区見下ろし(1月31日撮影)

   
●捜索救助●
14時25分、雪崩が発生。頂上付近にいたFは、スキーヤーズ・ライトにある安全な尾根を使い、埋没したEのところへ急行。また、雪崩発生時に、ちょうど尾根上にいた第3グループ(8人)が、雪崩発生と同時に事故を覚知。すぐに捜索に入った。途中、Eのケアを実施するFから状況を聞き取り、雪崩ビーコンによる捜索を開始。ほどなくしてCを埋没深1.5 m、Dを埋没深 50 cmで発見し、掘り出す。その後、Cの位置から50 mほど下方にてBを目視(ブーツがデブリから露出)で発見。Cは25分ほど埋没したが生還、Bは外傷、Dは窒息により意識不明、Eは肩の怪我となった。第3グループのリーダーは、他にも巻き込まれた人がいないか、大きく広がるデブリ帯を雪崩ビーコンでスイープ。その後、警察および遭難対策協議会は同日夕方、被害者および関係者の安全な下山のため、隊員を投入。意識不明の2人(B, D)を残して、11名を無事下山させる。翌30日、警察および遭難対策協議会、合わせて12人体制で意識不明の2人を救助。その後、死亡が確認された。

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図1 雪崩現場の全景

  

●謝辞●
情報をお寄せ頂きました皆さまに深く感謝致します。

 

●補記●
「持続型スラブ」の特徴については基礎知識「Unit 4 雪崩情報」にある説明を参照してください。1月27日夕方から28日昼頃までの降雪によるストームスラブの危険は、標高の低いところでは、28日午後には急速に落ちつてきていました。事故当日、森林限界付近においては、積雪表層にストームスラブの危険が残っており、中層には持続型スラブの危険が存在していました。基礎知識「Unit 3 雪崩地形」で説明しているように、雪崩は弱層までのスラブが薄いところで誘発されやすい傾向があります。今回も同様です。

なお、以下については、雪崩に関わる基礎を理解していることを前提に記載されています。雪崩は「どこで起こるかわからない」といった予測不可能な現象ではありません。持続型スラブのような難しいタイプの雪崩であっても、雪崩スキルある人皆が協力することで、おおむねの危険を把握することは可能です。ただし、その状況認知には必ず、不確実性があり、その大きさに合わせて、より良い地形選択をすることが、雪崩安全対策には最も大切です。

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図2 破断面データ(1月31日実施・SPIN 4/20修正)

  

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写真4 破断面の調査位置

  
1月13日午後から14日夕方までの間断のある降雨によって標高2,500 m付近まで濡れる。15日~16日で15 cm程度の降雪。その後、強風と低温が続き、18日には硬い雪面の露出などに警戒するようにアラート。20日午後から21日朝までに30 cm程度の降雪。
 
21日、複数の雪崩インシデントが発生。標高2,250 m、南斜面ではリモートトリガーの雪崩があり、標高2,200 m、南面にてワッフ音の報告。22日、サイズ1.5の雪崩やワッフ音が報告される。同日、標高1,900m、南面にて詳細な積雪観察(SPIN)を実施。14日の降雨で形成した融解凍結層上に十分成長したこしもざらめ雪があり、積雪テストで警戒すべき結果。同日、「雪の掲示板」に登録しているJAN会員に対し、持続型スラブの可能性が共有された。

23日、標高2,100 m、南東面で詳細な積雪観察(SPIN)が実施されており、ルッチブロックでスコア3を記録するなど、前日と同様に警戒すべき状態にあることを確認。翌24日朝発表の雪崩情報から「持続型スラブ」を掲載し、一般の山岳利用者へアラートを開始。持続型スラブの表示は、その後、事故日まで継続的に掲示。

なお、1月14日の降雨で融解凍結層は形成されたものの、その後、降雪が少ない状態が続き、さらに低温と強風の影響もあり、事故原因となったこしもざらめ雪の形成は、場所によってかなりばらついていることが、会員から報告されていた。破断面データでの滑り面は1月22日から23日の日射で形成した融解凍結層であったが、雪崩の原因となった弱層は1月14日の降雨で形成した融解凍結層と、その上に形成していたこしもざらめ雪のコンビネーションである可能性が高い。理由は、21日以降に多数実施された積雪観察、滑走者の誘発位置とスラブ破断の広がり方、破断面で調査した場所の問題、形成しているスラブの特性などによる。また一方で、22日から23日に形成した融解凍結層が滑り面であった可能性も示唆される情報提供があったため、当初の評価よりも、1月14日の降雨形成による融解凍結層を滑り面とする表現を弱い形に修正した。(補記:一連のデータの見直しを行い、再度、最終ブロックの文書を修正しました。4月20日)

  

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