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2021/03/19
2021年3月14日に乗鞍岳位ヶ原で発生した雪崩事故について、翌15日に現地調査を実施しましたので、速報としてお知らせ致します。数値等は速報値ですので、この後、変更される可能性もあります。
●事故概略●
日 付: 2021年3月14日
時 刻: 10時頃
場 所: 位ヶ原下部の急斜面(地形図)
概 略: ツアーコース出口にあたる位ヶ原下部の急斜面にて雪崩が発生。その地形下方を登行していた登山者7人と、強風を避けるため停滞していた滑走者3人が雪崩に巻き込まれ、完全埋没した男性登山者(49)が死亡した。
●雪崩データ●
種 類: 面発生乾雪表層雪崩(ウインドスラブ)
規 模: サイズ2.5 (流下距離約250 m)
標 高: 2,450m(上部破断面)
方 位: 東
破断面: 幅 150 m、厚さ50- 140 cm(平均100cm)
傾 斜: 30°-50°
弱 層: こしまり雪及び新雪
滑り面: こしまり雪及びしまり雪
※積雪データ(SPIN参照)
補記: 3月15日に現地調査を実施し、数箇所でデータ採取などを行った。その結果、以前の降雨(3月13日以前)で形成した融解凍結クラストの上に載ったスラブ内には、十分に結合力を高めていない箇所があり、新雪及びこしまり雪が観察された。硬度の高いスラブに結合力の弱い雪が薄く挟まり、雪崩発生の原因となることは、ウインドスラブの雪崩においては、しばしば観察報告されており、乗鞍岳は普段雪崩が多い山域ではないが、特段、めずしい現象ではない。
また、雪崩発生に関しては、その瞬間を目撃している方からの情報により、自然発生の可能性が高いと推察されているが、クライマーズライトの発生区内にて停滞していたパーティDが誘発の原因となった可能性も残されている。過去にあった別の山域の事案では、今回と同様に強風を避けるために稜線直下の発生区で雪洞を掘っている最中に雪崩を誘発したケースがある。
●行動●
前日からの新雪が深いこともあり、スキーのトラックを辿るように登山者が一列となって登行をしていたところ、斜面中間部(青丸)のあたりまで来たとき、上部で発生した雪崩に巻き込まれた。登山者はパーティA(3人)とパーティB(2人)が、ひとまとまりとなって登行しており、そのやや後方にパーティC(2人)がいた。登山者は全員が流され、完全埋没1人、部分埋没9人となった。また、同じ頃、斜面上部のクライマーズライト側では、滑走者のパーティD(3人)が、上部での強風を避けるために斜面内で停滞しており、彼らも全員、雪崩に流され、軽く部分埋没した。
●捜索救助●
雪崩発生後、パーティA及びBの登山者4人は近傍パーティ等によってすぐに救助され、不明の1人の捜索が開始された。不明者は雪崩ビーコンを携帯していなかったため、現場に集まってきた人たちが、めいめいにプロービングなどを行った。現場では、プローブが硬い雪に当たることで、埋没者と誤認するケースも発生しながら、懸命な捜索が行われた。その後、雪崩発生から1時間後に、日本雪崩捜索救助協議会の訓練を受けた地元ガイドが現着。現場指揮者となり、ラインプロービングを2隊(10人+15人)、スポットプロービングを2隊(3人+5人)、それぞれを埋没の可能性の高そうな場所へ配置するなどして、捜索活動をマネジメントした。11時40分、ラインプロービング隊が不明者を50cmの埋没で発見。すぐに要員内にいた医師がCPRを実施。12時、捜索活動に加わった登山者や滑走者、約40人は動員解除され、部分埋没して軽傷を負った登山パーティのメンバーも下山を開始した。13時10分、現場指揮者ら3人は、最終確認のためにデブリ帯を雪崩ビーコンでスイープし、さらなる不明者がいないかを調べた。その後、警察が地上ルートにて現着し、要救助者の搬出を行った。
●補記●
1.登行ルートと休憩場所の選定
この事故を理解する上で大切なことは、雪崩発生の可能性を見積もることではなく、安全な登行ルートと休憩場所の選定です。まとまった雪が降り、強い風が吹き、雪が移動しているという状況認知から、ざっくりと雪崩の危険性が上がっていると考え、それに見合った安全マージンを持つルートと休憩場所を選ぶことです。参考リンク「JAN MAGAZINES【vol.6】地形を友として」
2.雪崩対策装備の携帯
雪崩ビーコン・プローブ・ショベルは、ファーストエイドキットと同じようなものです。必要とする機会はごく僅かかも知れませんが、事案が発生した際、それがなければ、何も対応ができません。そして、雪崩の場合、一旦埋没してしまえば、危機的な状況となります。残念ながら、登山者のビーコン所持率はとても低く、直近10シーズン(2011-2020)における登山者の雪崩死者の75%(出典:『雪崩事故事例集190』)が非携帯です。
3.日本雪崩捜索救助協議会
大規模な事案にも対応できる現場指揮者の養成を目指して、山岳関係団体が集まり組織されました。山岳団体が同一プログラムを運用することは、これまでは行われておらず、2016年から1年以上の調整を経て、2017年秋に設立。効果的な現場統制のために、雪崩捜索救助の現場に日本で初めてICS(インシデント・コマンド・システム)の概念を適応させた訓練コースを開催しています。マニュアルは無償で公開されており、誰でも自由に利用が可能です。
●謝辞●
現地調査にあたり、Mt.乗鞍スノーリゾート様のご助力を頂きました。厚く御礼申し上げます。
日本雪崩ネットワークは様々な情報を提供するために、日々活動しております。今後も持続し続けて行くためにも皆様のご協力が必要です。