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2024/02/01

【事故調査】240109・北アルプス硫黄岳・雪崩事故

2024年1月9日に北アルプス硫黄岳(長野県)にて発生した雪崩事故について、関係者からの聞き取りを行うことで概略を整理しましたので、お知らせ致します。
  
●事故概略●
日 付: 2024年1月9日
時 刻: 11時30分
場 所: 硫黄尾根・湯俣川(地形図
  
概 略: 冬季バリエーション登山の途中にあった経験豊富な2人パーティが下山途中、湯俣川を渡渉し、高巻きトラバースをした際、雪崩を誘発。1人が流され、デブリと共に川に水没。すぐに救助がなされたが意識不明。衛星通信による救助要請の後、事故から2日後に2人は救助された。
  
240109_ioudake_map.JPG
図1 現場地形図
  
●雪崩データ●
種 類: 面発生乾雪表層雪崩
規 模: サイズ1.5(流下距離・約170 m)
標 高: 1,850 m(上部破断面)
方 位: 南東
破断面: 幅 10 m、厚さ30-50 cm
傾 斜: 不明
弱 層: 不明
滑り面: 旧雪面
  
240109_ioudake_startzone.JPG
写真1 発生区の様子
赤丸が誘発点。左下方より登行し、赤丸左の針葉樹にて、先頭をAからBに交代。Bが数歩進んだところで雪崩を誘発。
   
●行動●
一週間の日程で1月5日に七倉登山口から入山し、硫黄尾根付近(湯俣山荘付近〜西鎌尾根)にて行動。1月9日に赤岳ジャンダルム群P4付近湯俣側の野営地を撤収し、湯俣川本流まで下降。本流を渡渉し、対岸を100mほど高巻き。針葉樹脇で先頭をAからBに交代。数歩進んだところで、Bは雪崩を誘発し、流された。その際、Aの足元の雪も崩れたが、片足が安全地帯にあったため巻き込まれなかった。
  
240109_ioudake_terrain.JPG
写真2 周辺地形と積雪
事故当日の現場近傍の地形写真。天候は晴れ、積雪は浅く、アイゼンは地面まで到達し、露岩も多い状態。事故現場は写真右手奥となる。
   
●捜索救助●
雪崩が止まると、Bの片手がデブリから出ていることを目視で発見。Aはすぐに下降し、2分ほどでBを掘り出した(埋没深50 cm)。Bはうつ伏せでザック(100L程度)を背にしたまま、顔が水没。また、下半身がデブリと岩に挟まれ、水流もあるため救出は困難を極めた。ザックを外し、デブリの除去ができると、Bは水圧で流され、滝壺に落下。Aはすぐに滝壺に入り、Bを浅瀬に引き上げ、CPRを開始。30分ほど継続したが反応がないため、衛星通信で救助を要請。その後、15時頃までCPRを実施したが、A自身も全身入水しているため、低体温症の発症を自覚。CPRを中止し、救助を待った。そして、事故から2日後の11日8時過ぎ、新潟県警のヘリによって2人は救出されたが、Bは死亡となった。
   
240109_ioudake_runout.JPG
写真3 埋没付近の様子
赤丸付近に埋没。ザックを外し、デブリを除去した際、水圧でBは流され、滝壺へ流下。Aはすぐに引き上げを行い、写真手前側の浅瀬へBを救出。写真は事故翌日のため、デブリは水流によって流されている。
  
●補記●
今回の救助要請は、衛星を利用するサテライト・メッセンジャー(Satellite Messenger)であるinReachによって行われた。通報と同時にGPS位置情報が発射されるため、ピンポイントでの素早い捜索救助活動が可能となる。国内における冬季山岳遭難においても、これまで複数の通報事例がある。なお、国内ではまだ利用できないが、スマートフォンによる衛星経由の緊急通報サービスも、北米では既に開始されており、iPhoneによる救助成功事例も複数報道されている。この数年内に緊急通報のデバイスは大きく変化し、より生存救出に長けたものへとシフトするであろう。(2/1, 1530hrs。誤謬を防ぐため、文章を一部修正)

  

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