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2023/02/21
2023年2月19日に上高地(長野県)で発生した雪崩事故について、関係者への聞き取り調査を行い、概略が整理できましたので速報としてお知らせ致します。数値等は速報値ですので、この後、変更される可能性もあります。※事故現場位置について、情報提供があり、地図を修正・差替を致しました(4月6日)。
●事故概略●
日 付: 2023年2月19日
時 刻: 8時30分
場 所: 大正池(地形図)
概 略: 中千丈沢でのアイスクライミングを計画した5人グループが雪崩装備を携帯して 2月18日に入山。18日はアイスクライミングを行い上高地に後泊。天候の悪化により、19日の行動を中止し、下山のため釜トンネルへ向かう途中にて、上方で自然発生した雪崩に1人が巻き込まれ、下肢骨折等の重傷を負った。
図1:上高地大正池(地形図)
※4/6に修正差替。灰色=従前、赤色=修正後)
●雪崩データ●
種 類: 点発生湿雪表層雪崩
規 模: サイズ2.5
標 高: 1,620 m(発生標高)、1,492 m(デブリ末端)
方 位: 北西
デブリ: 幅と長さ30~50 m、厚み 1 m(平均)
●行動●
2月18日7時、釜トンネル入口から5人は入山。小雪が降る天候の下、中千丈沢にてアイスクライミングを行い、標高1,500 m付近の安全な地形にて野営。同日17時頃から降雨となる。翌19日もアイスクライミングを予定していたが、降雨は夜間も続いたため、19日3時に中止を決定。下山は先発3人と後発2人に分け、先発班は8時頃に出発。下山路となる冬季閉鎖された道路の側面上部には大きな雪崩発生区が複数あることをメンバーで共有し、雪崩ビーコンの発信を確認した後、下山を開始した。当時の天候は、弱い雨が降り、南西の軽風が吹いている状況。当該現場に近づいた際、自然発生した雪崩が先発班の最後尾を歩いていた1人を巻き込んだ。しかし、先行の2人はそれにすぐに気づかず、巻き込まれた当人からの電話連絡によって事案の発生を覚知した。
●捜索救助●
雪崩の発生を知った先行の2人は、すぐに引き返し、救助を開始。被害者は、濡れて極めて重くなった雪に流され、道路端にあるワイヤー型ガードレールに押し付けられるような形で部分埋没した。幸いにも上半身の埋没は免れたが、下半身は雪の重みであらぬ方向に押し曲げられ、下肢の骨折等の重傷の原因となった。被害者の掘り出しは、不安定な上体の保持が必要なため、1人がそれにあたり、残りの1人がシャベルでの掘り出し作業を行った。途中、通りかかった登山者に警察への通報を依頼。その後、後発班の2人も現着し、組織救助隊の到着まで、被害者の保温とケアに携わった。
●謝辞●
情報をお寄せ頂きました関係者の皆さまへ深く感謝致します。
●補記●
釜トンネル出口から上高地までの道路の上方斜面は、とても急峻な地形からなり、典型的な雪崩発生区の要件を満たしています。このため、短時間での多量降雪や、強い気象現象の最中あるいは直後などでは、雪崩の発生に特に注意を払う必要があります。上高地の周辺山地は地形スケールが大きいため、人を死に至らしめる典型的な規模であるサイズ2、車や小さな建物などを破壊する威力を持つサイズ3の雪崩もごく普通に発生します。そして、その雪崩は登山者やスノーシューでの散策の方が歩いている道路の上を通過します。
日本雪崩ネットワークは様々な情報を提供するために、日々活動しております。今後も持続し続けて行くためにも皆様のご協力が必要です。