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2022/04/14

【調査速報】220401八ヶ岳赤岳・雪崩事故

2022年4月1日に八ヶ岳赤岳で発生した雪崩事故について、関係者への聞き取り調査を行いましたので、速報としてお知らせ致します。数値等は速報値ですので、この後、変更される可能性もあります。
 
●事故概略●
日 付: 2022年4月1日
時 刻: 9時55分頃
場 所: 赤岳南峰リッジ取り付き斜面(地形図
概 略: 南峰リッジの登攀を目指していたグループ(3人)の内2人が誘発した雪崩に巻き込まれた。1人は140 mほど流され、ごく軽微な怪我で生還したが、男性1人(65)が完全埋没。埋没者は、翌日、警察及び遭対協によるプロービングによって発見されたが死亡した。

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図1 地形図(赤丸=発生位置、✕=埋没位置)

 
●雪崩データ●
種 類: 面発生乾雪表層雪崩(ストームスラブ)
規 模: サイズ1.5 (流下距離 約430m)
標 高: 2,765 m(上部破断面)
方 位: 北西
破断面: 幅 約10 m、厚さ15-20 cm(推定)
傾 斜: 不明(30度以上)
弱 層: 不明
滑り面: 不明

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写真1 発生区

状 況: 3月31日夜~4月1日早朝まで降雪があり、赤岳鉱泉付近で20-30 cm。当日、森林限界付近から上部では、北寄りの風の影響が強く、硬く融解凍結した旧雪面の露出と、新雪の吹き溜まりが混在する状況。吹き溜まりでは太腿程度まで潜る場所もあった。雪崩の始動積雪は小規模ながら、流下する途中で新雪を巻き込み、規模が拡大。デブリ最深部は3m近い。

 

●行動●
冬季登攀の経験豊富なリーダーの下、雪山歴5年程のメンバー2人からなる登山者3人のグループは、赤岳主稜の登攀を計画し、7時40分、赤岳鉱泉を出発。先行者なく、ラッセルしつつ文三郎尾根を登行。途中、登山道上にて、メンバーの1人がごく小規模な雪崩を誘発するも、登山道の鎖にしがみつくことで難を逃れた。これにより、リーダーは主稜取り付きへのトラバースが危険と判断し、南峰リッジへと計画を変更。登山道を外れ、南峰リッジ取り付きへの斜面を登行中、先頭を歩いていたメンバーのザックが灌木に引っかかり、手間取ったため、リーダーと他メンバーは灌木を迂回。その際、リーダーがアックスを雪面に打ち込んだ刺激で雪崩が発生した。

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写真2 発生時の位置関係(L=リーダー、M=メンバー)


●捜索救助●
流された2人の内、1人は文三郎道の下方20~30 mで停止し、埋没なく、自力脱出。一方、リーダーは行方不明となった。残されたメンバーは、互いの無事を確認した後、すぐに警察へ通報(9時59分)。県警ヘリが11時55分に現着するも、強風のため活動できず。その後、警察及び遭対協の地上部隊が現着するも、デブリは深い谷地形にあるため、現場確認のみで活動を終了。翌2日、8時より警察及び遭対協による15人態勢での捜索活動を開始。不明者は雪崩ビーコンを不携帯のため、ラインプロービングを行い、約1時間後にデブリ末端から約20mの地点にて、埋没深40 cmで発見。その後、県警ヘリで搬出されたが、病院にて外傷による死亡が確認された。

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写真3 全体地形と堆積区(赤丸=発生位置、赤点線=デブリ末端)

 

●謝辞●
聞き取り調査にあたり、当事者、長野県山岳総合センター及び諏訪地区遭難対策協議会の皆様にご助力を頂きました。厚く御礼申し上げます。

 
  
●補記●
・雪崩ビーコン
 雪崩ビーコンには二つの役目があります。一つは、仲間を生存救出するため、二つ目は、捜索救助に係わる第三者の「安全」と「労力軽減」のため。第三者とは、インシデント発生時、近傍にいて助けに入る方(共助)、あるいは、通報を受けて現場に入る警察・消防・遭対協等(公助)の方です。二つ目の重要性と、他デバイスでは迅速な捜索が不可能であることを理解していれば、単独行であっても、雪崩ビーコンが必要であることがご理解いただけると思います。また、転滑落を原因として雪崩が誘発され、埋没する事例もあります。
 今回は二次雪崩だけでなく、落石の危険もあり、なおかつ、深い谷底という「地形の罠」にて、長時間の捜索救助活動が行われています。もし、あなたが雪崩地形の認識とリスク管理の基本を理解していれば、これがどれほどのリスクテイクであったのか、ご理解いただけるはずです。
 雪山での活動(登山であれ、山スキー等であれ)が公助という社会リソースを使ったサポートを受け続けるには、その活動に係わる方、それぞれができることを実施する必要があります。雪崩地形がある場所で行動する際は、雪崩ビーコンの携帯をお願いします。雪崩ビーコンをお持ちの方は、日本雪崩捜索救助協議会(AvSAR協議会)から練習ドリルが公開されていますので、ご活用ください。

  

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