JAN MAGAZINES
2021/01/16
野谷荘司山(岐阜県白川村)で size 4の雪崩が、2021年1月10日午前2時~3時頃に発生しました。現場状況の確認を1月12日および15日に実施しましたので、レポートをお届けします。
●雪崩データ
日付: 2021年1月10日午前2時~3時頃
場所: 野谷荘司山(地形図)
規模: size 4(標高差1,000m)
種類: ストームスラブ(面発生乾雪表層雪崩)
補記: 発生時刻は行政の無線施設の破損等に伴う近隣施設での停電発生による推察。
●全体概況
雪崩は野谷荘司山と三方岩岳で構成される大きな谷で発生しており、晴天となった15日には北~東~南東に面した斜面の稜線付近で、多数の破断面が観察されました。なお、矢印は破断面を伴う雪崩の発生を確認できた場所です。つまり、この大きなボウル状地形の中にあるほとんどの急峻な斜面で雪崩が発生していたとお考えください。(補記:Aの位置を微修正。1/17)
また、今回、通信設備に損害を与えた雪崩以外にも、野谷荘司山への登山道の南側にある2つの谷でもsize 2.5とsize 3と規模の大きな雪崩が発生していました。この内、東に面した谷で発生した雪崩は、道路を通過し対斜面まで到達しています。
写真1)堆積区から野谷荘司山方向を見上げた写真です。写真左側に杉の木が何本か、被害を免れていますが、そのさらに左側には写真2の倒木が確認できました。なお、写真中央部の赤丸は、今回の雪崩で倒木が発生している区域です。
写真3)雪崩の流下方向へ倒木しています。写真1の赤丸の場所となります。
写真4)稜線から見た走路と堆積区の全景です。中央の赤丸が写真3、上部の赤丸が写真1と2の場所となります。なお、地形図に記載されている堰堤はデブリで完全に埋没しています。
写真5)野谷荘司山の稜線直下での破断面。地形図でAの位置となります。目測で2m程度あります。撮影日が15日であることを考慮する必要があります。
●降雪状況と雪崩の発生
気象庁・アメダス白川(標高478m)のデータをみると7日~9日の3日間で多量降雪があったことがわかります。ここの青いグラフは積雪深差の合計であることに注意してください。雪は積もった後、沈降していきますので、実際の降雪量はもっと多いということになります。
このような降雪状況においては、とても大きな雪崩が一つ発生した、というよりも、急峻でより雪崩が発生しやすいところで中小規模の雪崩が多数発生し、これによって深い谷が埋まることで、その後に発生した規模の大きな雪崩がより遠くまで到達しやすくなっていた、と考えることができます。これは、7日から始まった降雪が風の弱い状態で継続していたこと、15日に観察された規模の大きな破断面が、とても急峻な場所よりもやや斜度が緩くなった場所で生じていることなどの観察情報とも整合します。
●コメント
大きな地形に多量の降雪が載れば、規模の大きな雪崩が発生しえます。これまで「この規模の雪崩があったか・否か」といった人間目線の考え方ではなく、雪崩側に立った視点で考えてみてください。英語ではよく「Think like Avalanche」と表現します。今回の雪崩も、おおむね把握できたデブリ末端から野谷荘司山の稜線を見上げた見通し角は19度程度ですので、特殊な雪崩が起きたわけではありません。
雪山で行動する方は、報告された規模の大きな雪崩だけでなく、今回のように短期間に風の弱い状態で低温の多量降雪があった場合、白山山域のような急峻な地形においては、樹林帯においても結束力の弱い雪による雪崩が発生することにご留意ください。樹林帯であれば、小さい雪崩であっても、樹木が凶器となり重大な結末となりえます。また、スノーシューなどで山麓エリアを行動する方は、自分の上方に大きな発生区がないか、視線を上に向けることを忘れずに。
●補足情報
今回の大規模な雪崩の発生を受けて、地元の白川村から登山者および滑走者に対し、以下のようなアナウンスが流れていますので、ご確認ください。
更新日:2021年1月14日
災害対策基本法第六十三条に基づく白山山域への入山禁止措置を1月14日、解除致します。なお、この入山禁止の解除は、山が安全であることを意味しません。登山あるいは山スキー等で入山される方は、以下をご理解ください。
白山山域は、急峻な地形と深い谷を持つ、雪崩の危険度が高い地勢のため、今回のような短期間での多量降雪があれば、同程度の規模の雪崩は常に発生しえます。事前に気象情報を確認すること、十分に経験ある人あるいはプロの山岳ガイドと入山すること、雪崩対策装備を携帯すること、そして登山届の提出などをお願い致します。
※1月12日に実施した堆積区の調査においてトヨタ白川郷自然学校様にご助力を頂きました。御礼申し上げます。
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