JAN MAGAZINES

2020/01/14

【vol.2】意思決定の背後にあるもの

誰でも陥る心理的側面について

雪山での雪崩事故の原因は「知識の欠如ではなく、状況認知と判断のミス」に因るものがほとんどを占めます。たとえば、積雪が明らかに不安定である兆候が事前に観察されているにも関わらず、経験あると表現される人が危険な斜面に入り、事故となるケースなどです。

この理由は、事故によっていくつかの説明が可能なのですが、もっとも大きな因子はヒューマン・ファクターです。その人の経験や知識、あるいは個人の思考特性や日常環境などが背景要素として影響を与えています。ですから「雪崩の怖さを知らない人が事故を起こす」という表現は、適切な雪崩安全対策を考える上でミスリーディングをしているといえます。

雪崩教育に係る米国のイアン・マッキャマン氏は約600の事故事例を調査し、意思決定のプロセスに忍び込むヒューリスティックスに係る注意喚起として標語「FACETS」を提案しています。

■Familiarity(熟知性)
そこが慣れ親しんだ場所なのかです。雪崩発生区の要件を十分に満たし、潜在的に雪崩の危険性の高い斜面であっても、過去に何回も安全に滑走してきたという成功経験は、その日のコンディション判断にネガティブな効果をもたらします。

■Acceptance(受容)
グループでの意思決定に納得のいかない面があったとしても、それに対して異論を述べるなどして他メンバーから嫌われることを避け、状況を受容することで、他者からよく思われたいという行動を取る傾向があります。

■Consistency(一貫性)
ある意思決定がなされると、他により安全な選択肢があったとしても、それを十分に検討することなく、最初に下した判断に固執する傾向があります。特に、その決定が自らの発言や行動によって決まった場合、強く出ます。

■Experts(エキスパート)
実際は違っていても、より経験があるように見える人や他グループの判断を、そのまま信じてしまう傾向が人にはあります。たとえば、滑走技量がとても高い、あるいは海外の高山への遠征歴があるという事項と、雪崩スキルがあるか否かは別の話です。

■Tracks/Scarcity(滑走跡・希少性)
同じお菓子でも、十分な数がある場合と数が限られる場合では、後者の希少性に人は価値を感じ、評価が高くなります。同様に、競合する人やグループがあるとノートラックの斜面の見かけ上の価値が高まり、積雪コンディションが軽視される傾向が現れます。

■Social Facilitation(社会的促進)
自分たちの行動を見ている他者がいると、私たちは大きなリスクを冒す傾向があります。これは自身の滑走技量や体力に自信を持っている人のほうが顕著に現れます。

こうした心理の罠から逃れるには、メンバー間の潤滑なコミュケーションが大切になります。グループを構成している仲間と、気づいたこと、感じたことなどを話し合える関係性の構築を考えてみてください。

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