基礎知識

Unit 2 雪崩現象

雪崩の危険をマネジメントするには、まずは雪崩とはどのような現象なのかについて知る必要があります。雪崩の姿について、初歩的なことを整理しました。


2.1. 雪崩とは

「いったん斜面上に積もった雪が、重力の作用により、肉眼で識別し得るほどの速さで移動する自然現象」という表現で日本雪氷学会編纂の辞典では雪崩が定義されてます。斜面にある積雪は非常にゆっくりした速度で動いているため「肉眼で識別し得るほどの速さ」という表現が入っています。


2.2. 頑丈な積雪と破壊現象

地表に降り積もった雪は、良い条件下にあれば雪粒同士がしっかり結合し、とても頑丈になります。下の写真の積雪は一立法メートルで300 kg程度の重さがありますが、引きちぎれることなく、軒先から垂れ下がっています。積雪は一般的に思われているよりも強度を持っており、山岳の積雪はそこそこ安定していることも多いのです。それゆえ、私たちは雪山での各種アクティビティを楽しめる理由にもなっています。

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では、そのしっかりした強度を持つこともある積雪が、どのようなときに雪崩れるのかといえば「雪の結合が壊れるとき」と考えると理解しやすいと思います。たとえば、雪粒同士の結合が初めからとても弱い状態にあれば、何かがきっかけで雪が崩れると、周囲の雪を巻き込みつつ、雪崩となって流れ始めます。あるいは、積雪内に雪粒同士の結合の弱い箇所があり、その強度を上回る負荷が加わることで、そこの雪の結合が壊れ、これをきっかけとして雪崩が発生する場合もあります。ですから、雪崩の危険を考えていくときは、どのような場所や条件にある雪が破壊現象を起こしやすいのかを探っていくことになります。


2.3. 点発生雪崩

結合力の弱い雪がある程度まとまってある場合、ある一箇所の雪が崩れることをきっかけとして雪崩が発生します。この雪崩を「点発生雪崩」といいます。イラストのように落雪や滑走者のスプレーがきっかけになることもありますし、自然に発生する場合もあります。この雪崩を構成する雪には結合力がありませんから、横方向に広がりのある雪崩にはならず、縦長に流れていきます。

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点発生雪崩を起こす雪は、雪粒同士が結合していませんので、たとえ樹木があっても雪をその場に置き留める効果は小さくなります。それゆえ、点発生雪崩は、斜度が十分にあれば樹林帯でも発生します。また、下の写真のように斜度が十分にある大きな斜面ですと、雪崩が流れるに従い雪量が増え、規模が拡大します。

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降雨や日射、昇温などによって積雪表層の雪が十分に濡れると、雪粒の結合強度は低下しますので、下の写真のような湿雪の点発生雪崩が発生します。濡れた雪はとても重いため、小さい雪崩に少し巻き込まれただけで骨折などの重症を負う場合もあります。

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2.4. 面発生雪崩

積雪を構成する雪が結合し、板状の性格を持つことで発生する雪崩を「面発生雪崩」といいます。広い範囲の斜面積雪が、誘発と同時に動き出すため、逃げることが難しく、ほとんどの雪崩死亡事故に関係しています。この板状の性格を持った雪のことを「スラブ」といいます。

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面発生雪崩が起こると、動き出したスラブの厚みがわかる「破断面」、そのスラブが流れた「滑り面」などが現れます。また、積雪内に存在した雪粒同士の結合力の弱いところを「弱層」と呼びます。面発生雪崩では、この弱層の破壊をきっかけとして雪崩が起こります。

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面発生雪崩を構成するスラブは、とても軟らかいものから、ツボ足であるいても潜らないようなとても硬いものまで、かなり幅があります。下の写真はとても軟らかいスラブによるものです。破断面は形成していますが、その雪崩れた雪(デブリといいます)を見ると、雪粒同士の結合力がまだとても弱い状態にあることが伺えます。

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一方、下の写真のデブリをみますと、雪ブロックが多数見て取れます。このようなとき雪崩は硬いスラブによるものであったことがわかります。また、滑り面には降雨による縦溝がありますので、滑り面自体もかなり硬いことが写真から理解できます。なお、面発生雪崩の滑り面は、必ずしも硬いとは限りません。ツボ足で楽に歩けるような硬さのこともしばしばあります。

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2.5. 誘発のメカニズム

面発生雪崩が誘発されるとき、次のことがコンマ数秒の間で起こります。A)人の刺激がスラブを通しで弱層に届く B)弱層の破壊が起こる C)その破壊現象が弱層に沿って広がる D)下支えを失ったスラブが引張破壊を起こし、雪崩となって動き出す。

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面発生雪崩の誘発のしやすさや発生後の規模などは、スラブ・弱層・滑り面の組み合わせと地形要素で変わります。人が誘発するタイプの雪崩は、新雪滑走が楽しめる程度の硬さのスラブで、その厚みは人の刺激が弱層まで届きやすい40-60 cm程度のものが多くなります。


2.6. 表層雪崩と全層雪崩

積雪の雪面に近い部分の雪が崩れるものを「表層雪崩」といい、積雪全体が崩れるものを「全層雪崩」と呼びます。冬季山岳での雪崩事故のほとんどは表層雪崩によるものですが、全層雪崩にも特有の危険があるので、それを知る必要があります。

厳冬期でも気温の高い地域、あるいは春季に多く観察されるのが、下の写真のような濡れた雪による全層雪崩です。多くの場合、雪崩が発生する前に、斜面には雪シワや積雪の割れ目(グライドクラックといいます)が現れるため、その場所の危険度が上がっていることを気づきやすい面があります。

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下の写真は1月下旬に発生した乾いた雪による全層雪崩です。濡れた雪にしろ、乾いた雪にしろ、積雪の下層を構成する雪の密度はとても高いため、雪崩は重く、硬い雪ブロックを多数含みますので、たとえ小さい雪崩であっても大きな破壊力を持ちます。

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2.7. 雪崩の動態

乾雪の面発生表層雪崩を誘発した場合、まず、スラブが割れながら滑り運動を始めます。スラブは流下しながらブロック状に割れ、さらに砕かれ細かくなり、斜面が十分に長く、急であれば速度が上がることで、雪煙が上がります。流下する雪は、表層付近の積雪を巻き込みながら流下を続け、規模が大きくなると、雪崩は流れ層と雪煙部を持つ混合型と呼ばれる形態になります。

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雪崩の流れ層は一般的に地形形状に沿って流れる傾向を持ち、雪煙部は地形の影響をあまり受けず、直進する傾向を持ちます。規模が大きくなると、流れ層が小さい尾根などを乗り越えることも、しばしば観察されます。乾雪の面発生雪崩の速度は最大で200 km/h以上になることもありますが、これにはとても大きく急な斜面、十分な雪量を持つスラブの始動などが必要です。

濡れた雪の雪崩の場合、雪煙は上がらず、またその流れ層も波を打つように流下していくのが一般的です。雪崩は地形形状に沿って流れることが多く、その速度も乾雪ほど速いものにはなりません。

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2.8. 雪崩の規模

雪崩の規模を表現する方法はいくつもありますが、冬季レクリエーションの現場では潜在的な破壊の規模から区分したものを使っています。目安として、厚さ40-50 cm、幅50 m程度のスラブが動くとサイズ2程度となり、雪山で活動する人にとって致命的な規模になります。

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現在、雪山にどの程度の雪崩の危険度があるかの指標として「真新しい雪崩の跡が最も重要な情報」になります。どのような種類の雪崩が、どの程度の規模で発生しているか、そして、その標高や方位などに注意を向けるようにしてください。日本雪崩ネットワークでは、雪山に入っている人が協力できる仕組みとしてTwitterを利用した「情報共有」を行っています。

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