STEP 5
状況に気づく

積雪と気象の変化は?

気象は積雪コンディションに影響を与え、積雪強度の多様性を生じさせます。行動しながら、常に気象現象と積雪状態の変化に気を配ることが安全にはとても大切です。

雪崩情報と実際のズレ

雪崩情報は、発表山域の積雪の全体傾向を伝えています。よって、雪崩情報が表現する積雪状態よりも不安定な場所、あるいは安定している場所が存在します。また、雪崩情報は、朝の時点での現況ですので、天候状況によっては昼にはその危険度が変化していることもあります。ですから、現場では雪崩情報と実際のズレを確認しながら行動してください。

積雪の不安定性を示す直接証拠

真新しい雪崩、シューティングクラック、ワッフ音、スキーパトロールが安全管理で発生させた雪崩など、積雪の不安定性を示す直接証拠を見逃さないように。これらが積雪の状態を直接的に教えてくれる最も重要な情報です。

風、降雪、気温の変化

積雪は急激な変化に弱いため、短時間での強い気象現象に注意を払う必要があります。積雪に影響を与える三大気象要素は「風」「降雪」「気温」です。

風に関しては、小樹木が揺れ、乾いた雪が雪面を移動する程度の風(風速8~11m/s・軽風)が一つの目安です。降雪は1時間で3cmの堆積がある強さ(時間降雪深)が数時間継続した場合、注意ランプが灯ります

朝の時点で積雪が安定していても、軽風を伴いながら時間降雪深3cmの強さの雪が数時間続いていれば、「風下側の斜面では、重大な結末をもたらす規模の雪崩が発生しうる状況となった」と考えることが必要です。これは弱層テストなどよりも、遥かに重要な情報です。

短時間での急激な気温上昇も積雪を不安定化させます。雪山で活動している時は、気温上昇に気づきにくい面がありますので、休憩の際に気温を測ることは、その変化に気づく良い習慣といえます。

地形の特徴と曝される危険の大きさは?

地形スケールと特徴が、発生しうる雪崩の規模に関係しています。積雪表層10cmが雪崩れたとしても、もし、斜面が大きくかつ雪崩れた雪が集まってくる地形であれば、人を死に至らしめる規模(サイズ2)の雪崩になりえます。地形が持つ危険のポテンシャルを見抜くことが必要です。

複合的な地形か、シンプルな地形か

雪崩発生区が複数組み合わさった複合的な地形であるか、斜面変化が少ない大きな裾広がりの地形であるか、といった違いは、その地形内に入るか否かの判断基準になります。凹凸が多く、複雑な形状を持つ地形のほうが積雪強度のバラツキが大きくなり、その判断は難しくなります。

言い換えれば、同じ雪崩危険度であったとしても、複合的な地形とシンプルな地形では、引き受けるリスクの大きさが異なるということです。雪崩危険度が高い、あるいは積雪の不安定性への確信があまり持てない場合などは、リスクの小さいシンプルな斜面を利用するのです。

地形規模と安全地帯

現在いる安全な場所から雪崩地形に入る際、メンバー全員が次に安全な位置で待機できるのはどこだろうか?と地形を観察することは、リスクを軽減する面でとても大切です。安全な場所が確保しにくい沢状地形を長く滑走するようなルートは、積雪コンディションとは別の面でリスクの高い選択肢となります。

「地形の罠」はあるか

たとえ小さな雪崩でも重大な結末を招くような地形を「地形の罠」といいます。雪が中央に集まってくる漏斗状や沢状の地形、斜面の直下や途中にある樹林や岩などの障害物、クラックや沢底の穴など、いろいろなタイプがあります。

仲間とのコミュニケーションは?

周囲の状況に気づき、適切な意思決定を下すには、仲間との良いコミュニケーションが欠かせません。真新しい雪崩などコンディション判断のための重要な情報を得た時は、必ず、皆でそれを共有することで、より適切な判断ができるようになります。

皆が行動に無理を感じていないか

リーダーシップの重要性はよく語られますが、フォロワーシップも大切です。メンバーは安全なツアーを実施するという目的のためにチームを構成しているのです。互いに気を配り、メンバーの誰かに不要なストレスが掛かっていないか、注意を払ってください。

気になることを率直に会話しているか

メンバー全員が本当はあまり行きたくないにも関わらず、誰も異論を唱えないため、誤った行動を取ってしまうことがあります。これは「アビリーンのパラドックス」と呼ばれる集団心理です。誰であれ、その場の空気を壊す発言には尻込みするものだからです。積極的かつ率直なコミュニケーションがこれを防ぎます。

結末の重大性は?

ある判断を下す際、最悪のケースを考えておくことは大切です。積雪状態を確認するためにスキーカットをしたい場合、もし、雪崩に流されても大丈夫な小さい地形を選ぶのか、それとも下方に「地形の罠」がある斜面を選ぶのかで、結末の重大性は大きく異なります。

積雪状態の推察は常に不確実性があります。地形認識に基づいて、その斜面がどの程度の潜在的な危険度を持つのかを考えてみることです。それにより、どのような行動形態がより良いのかがわかるようになります。

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